最初から読む方は↓
107: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/01(土) 22:23:31.77 ID:bIIxCdtn0
図書室を出て、1階に降りる。
下駄箱で靴を履きかえた。

まだ鼓動は早い。
秋山の顔が目に焼き付いている。

俺はグランドの脇に設置されている水飲み場に寄った。
蛇口を上に向けて、カランを回す。
勢いよく水が噴き出した。

自分の精液を連想して、
いささか気持ち悪かったが、ゴクゴクと飲み始めた。

(お前ら「先生んとこの板」みたいに
ノブ子のコピペとかするなよwww)

たらふく水を飲み、顔を洗った。

校門を出て少し歩いた先に、黒い学生服が3人立っている。

うっふーん、嫌な予感が隠しきれませんねー。

となるはずが、
俺は良いことがあると警戒心が薄くなる癖がある。

図書室で石橋に逆らい、
トイレでヤキを入れられた日も、
真田との共同プロジェクトで浮かれポンチぶっこいてる時だった。

108: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/01(土) 22:24:50.86 ID:bIIxCdtn0
この日もそうだ。
夢だった学食での温かなランチ、
しかもオゴリ。
さらには相手は真田。
でもって、秋山との初体験じゃなくて初会話など、
俺としては人生のハイライトに近い
イベントが目白押しだった。
今死んだら、走馬灯はここで一番盛り上がるはずだ。

俺は油断していたのだ。

いつもなら、引き返して回り道をするところを、
ぼんやりと歩いてしまった。
あたかもロバのように・・・(←文学的な表現)

前田が俺を指差した。

前田「出川だwww」

見つけないでよ!
エセイケメン!

109: 名も無き被検体774号+ 2012/12/01(土) 22:25:10.90 ID:4dCWTvMc0
きたああああああああああああああ

110: 名も無き被検体774号+ 2012/12/01(土) 22:25:45.61 ID:4dCWTvMc0
やばいにげてぇぇぇぇぇぇ

111: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/01(土) 22:27:00.68 ID:bIIxCdtn0
ってか、なんで俺を見るといきなり笑うかな。
出落ちの芸人じゃないんだから、やめてよ!

3人が、かったるそうに俺に向かって歩いてきた。

こっち来ないでよ!

ダンカン「出川じゃーん」

っほんとに笑顔が気持ち悪いな、ダンカン、お前は。

前田「うざー」

お前がな^-^
ってか、だったら、来んなよ!!!

ダンカン「つまんねーの釣れちゃったなぁ」

嫌いなんだよね、
髪の毛茶色の釣り人とか。

石橋「しょーがねーなぁ。たまには出川と語るか」

え?何?
語るかって、すっげー不吉だし、気持ち悪いんですけど。
どういうつもりだよ!
お前、また何かよこらぬことを考えてるの!!!

ダンカン「えー、こんな奴連れてくの?」

石橋「まぁ、たまにはよ」

前田「ちょwwwツルみたくないんですけどwww」

俺も同じくだよ!
激しく、前田に同意だよ!!!!!!!

112: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/01(土) 22:28:03.84 ID:bIIxCdtn0
石橋「飽きたら、リリースしてやりゃいいじゃん。
行こうぜ。出川、逃げんなよ」

環境に優しいんですね・・・

なわけねーだろ、クソ番長!
キモイキモイキモイキモイ。

石橋はそう言うと、スタスタと歩きはじめた。

前田「6時まで、まだ時間あるしなあ」

6時ってなぁに?

ダンカン「昨日も調子良かったしな!」

おせーて、何々?

ダンカンはなぜか上機嫌だ。

茶髪に短ランとボンタンという
知性のかけらもない後姿を眺めながら、
俺はなぁに、なぁに、と思いながら、
とぼとぼと歩いた。

113: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/01(土) 22:33:02.48 ID:alFxjV5w0
奴らは歩きながら「っぱねー」だの
「まじ、きてるわ」だの
相変わらず母国語を無視して、
独自の言語で会話を交わす土人一族。

頭、あったか過ぎるだろ、てめえら!!!
ってか、俺は猛烈に家に帰りてーよ。

小心なダンカンは、
俺がちゃんと着いてきているか、
時折、後を振り返り、パンチの真似などをする。

ガキかよ・・・

校門からしばらく歩いたところにパン屋がある。
その裏手に誘導された。

パン屋の裏は空き地になっていて、結構広い。
ベンチとテーブルが置いてあり、動かすことも出来る。

高校からそれほど離れていない場所であり、
正門から裏門に戻る形になるので、人もそれほど多くない。

石橋はベンチに腰を下ろすと、ポケットからタバコを取り出した。

石橋「ふぅ」

賢者モードですか?
違いますね。

115: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/01(土) 22:35:30.27 ID:alFxjV5w0
前田「おい、出川、ちょっとジュース買ったこぉよ」

俺は硬直した。


┼┼┼─ /           // ,イ ,ィ i         | ‐┼─
┼┼┼‐ / ,r‐-、   _.. -t  ヽノ// / | ll          l │
┼┼┼ / //⌒ソ,.r ''_三ミ、l   ヾ /ノ  | .| l        トl. ┼─
│││./ //⌒// (  `ヾミl  ゝu u r‐' "    /    |  │
┼┼ / //⌒// ヾヽ @ ゞ廴〃〃〃 __... -, i"レ  ノ トl  ┼─
│  ./  ゝ`、〃 ~i ゞヽ、   ゛!}}/〃ッ====V、  レ  /. ┼┼─
┼ /    `〃 u   Uゞ三≡彡/|j./{{ @    ノノ /,、 /. ‐┼┼─
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┼/      l {/ / 〉、 u  |j / / ゞミ≡三彡" // `ソ/ ┼┼┼─
 /      l ヾヽ/ /\ ( /u/ u u U / u//こソ/ │││
../      | |ヽ` 〈  /\.Uノ、). -==='" u 〃、__ノ ‐┼┼┼─
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     / .┼ | |j~ `<`>、  `''´、/_ノ /   ./ ナ/  │││
.    /┼┼ l u ヾヽ`ヽ/`ン‐-ノ/    / ./ / ─┼┼┼─
   / ││  l |j u ゞヽ  ̄ ̄/     / ナ./_.... -‐ '' " ´
.  /‐-- ....__l     u _..、-''/      / ̄ ̄
|/|/         `'--‐''´    /       /


ついに来たか。

俺が最も恐れていた瞬間は、この時だったのかもしれない。

今まで、俺は殴られ、蹴られ、
勃起したチンポを握りつぶされたりもしていたが、
金をとられたことだけはなかった。

冗談じゃない。
俺は絶対に1円も払わない。

タカられてたまるか!

116: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/01(土) 22:37:10.72 ID:alFxjV5w0
昼間は経費削減に成功したんだ。

カツカレー350円とジュース100円の合計450円。
こんなところで無駄にしてたまるか。

---注釈
1スレの 371 なんて誰も覚えていないだろうが、
物価をどう記述しようか? 
ってのがあったと思う。
俺がグジグジ悩んでいて、
「うっせー、はよ!」とか怒られていた、あれだw
あれこれ考えたが、おおよそ今の値段で行くことにした。
当時の学食はカツカレーは280円、リンゴジュースは60円。
ちなみにカレーは200円。
定食、うどんの値段は覚えていないし調べる術もない。
タバコも当時は220円だったが、410円で表記する。
少年ジャンプも今は240円くらいだと思うが、当時は170円だった。
---終わり

俺は暴力に対して恐怖はしている。
そして、暴力に屈して金を払う奴がいることも知っている。
その気持ちもよく分かる。
しかし、金だけは払うまいと決めていた。

117: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/01(土) 22:37:52.96 ID:alFxjV5w0
殴られるのは痛いし、怖いし、嫌だ。
しかし、金を払う心の痛み、
経済的なリアルな痛みは、もっともっと耐えられない。

俺はプライドよりも肉体よりも、金が大切だと思っている。


  /        ,、        ヽ
 /  ィ       ./;;;;N∧      ヽ
.// .l  〃リ\/、;;u;/ /;;ヽl;、 ,-‐、 l   うわああっ………!
   |/|/ヾ;;r~、\|ij|〃ー´~);;| |  / l
      ヽ)_ oヾ ,, o  _r´;;;| |  l | まずい……!終わっちまう………!
       〈;;;;;ij /ij `ひy′ |.|、_ノ   |
       l ''''ノ __┐ -' ゛./l    l       金が…!
.       ヽ、ェェェェェエコゝ 〉/    ヽ
        l.}ェェェェェェェノ/ /   l\ ヽ       命の金が
         '、 u ,,,,,,,   / /   l  .l ̄"'''ー-
          ヽ ij'''' ノ;;; //   .l  l_
       _,.、-''|ヽ、 ノ;;;;;  /   /l   .l   ̄""    ううっ…!
    ,、-''´   |'、 `´l;;;;  /l .| ./ .|  .`、         ぐぐっ…!
   ノヽ、 _,、-'´| ヾl、 |、   l l.//|  ,、  ヽ
   l   l''´    |   .ヾ| ヽ、__リ/  | ./  ̄ヽ
  /    ヽ   ノ , ヘ .|       .|/
 ノ     ヽ  l/   .|        .l

118: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/01(土) 22:39:36.76 ID:alFxjV5w0
ボンボンから転落して、金のことでなんの苦労もなかった家から、
いきなり母親と金のことで喧嘩する環境に変わった。
先行きの不安もある。
世の中はまだバブルの真っ最中であったが、
俺の家には泡の匂いさえ漂ってこなかった。

母親が疲れた体を引きづって、毎日、経理の仕事に出かけていた。
貧しい食事を二人でしていた。
毎日、毎日、金のことを考えた。
中学時代を思い出したり、
かつてのクラスメートのことが頭をよぎる度に、ミジメだった。

将来に対する恐怖もあった。


    ,.へ           /`',
  //ヽ.\      (二二  .二二二)
.//    \ヽ._      / ./
` '       \_`,    .//      ∩∩  ,へ
              /_,-‐-‐‐- 、  ∪∪//
            -=ニ ̄      \  // O O O
           /            l__
          /      __   /|     _\
          ( i'^'l r‐ ' ̄| .| i /  |   、\ ̄    嘘だ…
        //-iノr-'⌒ヽ|/ / /二|/  l |ヽ|
      _<  ((/((._ ,@ v,  =、、 |/| | |i |
    <     / u_ιu~= u/_ @ ヾ//| |l/     夢だろ…これ…
 < ̄      l/ニヽ-、_r _  {ι、,-'´/ レ
 ─┬─ |   /ヾニヾ、ヽ、\J /
  ./  // / `i v ヾ ニ、_ノノ          夢に決まってる…!
/  / // /  ヽ ミ u,/'//
' ̄i/   //   /`-'/´///

119: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/01(土) 22:40:38.30 ID:alFxjV5w0
高校1年の俺が大金を稼ぐことなんて出来ない。
だったら、少しでも使う金を減らすだけだ。

それをこんな奴らに取り上げられてたまるか。
俺は殺されても、金だけは払うまいと決めていた。

それでも強要されたら・・・
俺はどうするのだろうか?

そこに転がっている石ころを手にとり、飛びかかるか?
できっこない。

ダンカンにだって適う訳がないのに、
石橋、前田といて、どうにかなるとは思えない。

真田でも通りかかってくれないか?

真田真田真田。

真田来てくれ!








俺は念じ続けたが、
そんなマンガみたいなことが起こるわけはない。

120: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/01(土) 22:43:23.42 ID:alFxjV5w0
せめて柴田がいてくれたら。

そんな望みも叶いそうもなかった。

俺の体中の血がおかしな流れ方をしている。

3人分でジュース360円。

冗談じゃない。
冗談じゃないぞおおおおおお!

足は遅いが逃げるしかない。
民家に飛び込んで警察を呼んでもらってもいい。

俺はそこまで覚悟を決めた。

ここで引いたら、これから金をとられ続ける。
だったら、高校を辞めて働いた方がいい。

不思議だった。
金への執着が俺を少し強くしてくれていた。

このままエスカレートすれば、いれずカツアゲだタカりだとなっていくのは、規定路線でもあろう。

ジャリ。

俺は足元の砂利を踏みしめ、全速力のための初動の準備にかかった。
追いつかれたら、叫ぼう。
暴れよう。

顎(アゴ)が小さく鳴っていたが、もう決めた。

俺は、こいつらと、自分なりの戦い方をする。

決めると、簡単な気分だった。

その時に、信じられない光景をみた。

135: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/02(日) 18:56:50.80 ID:AVbyTqW30
おっすおっす。ぼちぼち、まったり書くぞー。
ちょっとペースゆるめで、時間空きながらになるが、
付き合え、ください。

137: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/02(日) 18:58:32.74 ID:AVbyTqW30
その時に、信じられない光景をみた。

石橋「ほら。釣りはとっておけ」

千円札を石橋が俺に向けて放り投げてきた。

え?
何、これ?
ぜんぜん、意味がわからない・・・

石橋「出川、お前もなんか、好きなもん飲めや」

俺は自爆の決意までしていたのだ。

緊張感は人生でも1、2を争うレベルだっただけに、
一気に力が抜けた。

忘れていた恐怖が襲い掛かってくる。

転んだ瞬間は痛くないが、
時間差でじわじわと痛みがやってくることを俺たちは知っている。
そんな感じに似ていた。

緊張が解かれて少しして、足が震え始めた。

それにしても、石橋の気前の良さは不気味である。
それと同時に、理解できない訳でもない。

ヤクザ映画に出てくる、兄貴だか親分がこんなことをする。
あれの真似なんだろうか。

138: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/02(日) 18:59:30.53 ID:AVbyTqW30
ダンカン「さすが、スロット3箱!ゴチになります」

前田「ダンカンだって、セブン台4連荘してたじゃん」

前田は手でパチンコのハンドルを回す動作をした。

ダンカン「でも、トータルだと、前田の方が勝ったんじゃね?
前田は平台も打ち止めにしていたし。俺、けっこう突っ込んだし」

前田「でも、石橋の1000円で3箱は凄すぎ。6万だろ?」

石橋「たまにはパチ屋に預けっぱなしの預金、引き出さねーとな。」

後で分かったが、この6時というのは、
パチンコ屋の新装オープンのことだった。
平常営業は10-22時のパチンコ屋であるが、
台の入れ替えの時にイベントを行う。
宣伝も兼ねて店がいつもより多く玉を放出するため、
18-22時などの変則的な営業時間になる。

3人は昨日、パチンコで勝って臨時収入があったのだ。

俺は千円札をひろうと、
パン屋の横の自動販売機で奴らが指定した飲み物を買った。

俺の分か。
その前に。
釣りをくれるというが、ここでも熟考をしなければならない。

139: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/02(日) 19:03:31.21 ID:AVbyTqW30
考えて考えて考え抜いて結論を出す。
時間は短くてもいい。
脳みそが汗をかくまで、考えてる。

集中力を極限まで高める。
労を惜しんではいけない。
でなければ、俺は生き残れない。
俺があいつらより勝っていることは、
考えること、
それだけなのだから。

俺の脳みそが言う。

これは返すべきではなかろうか・・・

なぜだ?

石橋に借りなんぞを作ってはならない!

確かに。
もっと具体的に。借りを作ると、一体どうなる?

石橋のことだ。
後後になって
「持ちつ持たれつだろ。あんとき、
小遣い渡したじゃねーか。援助しろよ」
みたいな話になることは予見できる。

そうだ。充分考えられる。

絶対的な線を引くべきだ。

さきほど、俺は自分の金を守るために、
全てを投げ出す決意をしたばかりだ。
ここも同じだ。

奢られない、釣りも貰わない。
絶対的な線を石橋に対して引かなければならない。

小銭を一度握りしめてポケットに入れると、飲み物を抱えた。

140: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/02(日) 19:04:06.65 ID:AVbyTqW30
石橋「お前のは?」

俺「要らない。お釣りはここに置いておく」

手渡しはせずに、ベンチに置いた。

蹴りが来るかと思って身構えたが、睨まれただけだった。

石橋はいつもと様子が違う。
ダンカン、前田は相変わらずである。

ダンカン「なんだそれ、可愛くねー野郎だな」

前田「貧乏じゃなかったの?コイツ」

ダンカン「金持ちの癖が抜けねーんじゃないの?」

どうしてそういう二元論でしか
物事を把握できないんだよ、お前らは。

この時の俺は次のようなことを具体的に知ってたわけではないが、
強烈な違和感は覚えていた。

まず、金持ちが金に頓着ない、
貧乏人が金に執着する、ってのが違うだろ。

執着するから金持ちになれるのであって、
多くの場合は10億円貯金があるから100万円くらい
どうでもいいぜー、って発想にならない。
そんな奴は、そもそも1000万円にも届かない。

一方、貧乏人は金についての意識が低いから、貧乏のままだ。
貧乏人の方が気前がいい場合さえある。
借金をしてでも人に奢ったり、派手な生活をする愚かな奴は大勢いる。

安易に金を儲けてしまった金持ちは、
失うのも安易であったり、
金を持つに至るプロセスでも向き合い方は違う。

さらに言えば、金の使い方といっても、
投資と消費と浪費で区別できる。
その区別もできない人間も多い。

石橋は俺の目をじっと見ている。
睨んでいるのとも違う。
測っている、という風にも見える。

なぜ、いつものように殴って来ないのだろうか?

141: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/02(日) 19:22:00.91 ID:AVbyTqW30
的場と柴田を交えた5人組の中で、
石橋は完全にリーダー格にのし上がっていた。

入学当時の微妙なバランスから、一つ抜けたようだ。

柴田は不満分子として燻っていることを石橋が知っているかどうかは分からない。
ただ、形としてはリーダー格にのし上がっている。

さっきも、ガキながらも札びらを切ることで、
親分肌なところも見せている。

もしかしたら、想像以上に狡猾な奴なのではないか?
俺は石橋が、あの北中東中がたむろしている暗黒地帯へのデビューを目論見、日々ロビー活動に勤しんでいることも把握していた。

実は俺と同じ種類の人間なのではないか?

ふいに浮かんだ言葉は「近親憎悪」だ。
自嘲的な笑みが浮かびそうになった。

俺は恐怖の対象でしかなかった石橋の、
これまでの言動や行動を一つ一つ思い起こしてみた。

142: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/02(日) 19:22:56.10 ID:AVbyTqW30
もっとも強烈だったのは、トイレでのヤキの場面だ。

石橋は真田のことに強くこだわっていた。

わざわざダンカンに前田たちを呼びに行かせて、
二人になった時に初めて真田の名前を出した。

つまり、ダンカンにさえ、そのこだわりは気付かれたくないのだ。

案外、繊細なところがあるのか?

ずっと暴力的なところばかりに目が行っていたが、
もしかして石橋は、俺と
考えることはそれほど違わないのではないか?

もしも、石橋が。
石橋なりに戦略的にこの学園生活を生きているのだとすれば、
コイツの目的はヤンキーとしての地位向上だろう。

馬鹿かよwww
笑えるwww

と思う反面、俺の目的だって、くだらないものだ。

イジメられないために、だからなwww

なんとなく見えてきたものがある。

石橋は恐れている。
そして懸念しているのだ。

真田と俺の関係性がはっきりするまでは、手を出したくないのだ。

そうだ。

石橋は俺と真田が急速に近くなり、
万が一、俺に手を出して、真田が出てくることを恐れている。

馬鹿だなwww
そんなに仲良いわけないだろうwww

143: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/02(日) 19:24:23.60 ID:AVbyTqW30
とするとこの日、
石橋は俺を待ち伏せしていた可能性が高い。

口実などは簡単に作れる。

前田やダンカンに
「まだ時間あっからよ、この辺ブラブラして、
来た奴、さらってオモチャにしようぜ」
みたいなことを言っていたんだろう。

前田「なー、コイツ、つまんねーよ。放っておこうぜ」

前田はイケメンであり、いわゆるツルむ人間を選ぶ。
ヤンキー以外とは一緒に歩きたくないのだ。
普通の恰好をした人間と居るだけでナメられる。
自分のDQNとしてのステータスが下がると思い込んでいる。

高校のこの時、誰とツルむか? へのこだわり方で、
中学時代にくくだった修羅場の数が計れることを、
俺はこの時はまだ知らない。

ダンカン「プロレスの技とかかけると、けっこう面白いぜ」

ニタニタと笑うダンカン。

石橋は無言のままだ。
相変わらず、測ったような目で俺を見ている。

寒い水の中に爬虫類がいるのかどうか、俺は知らない。
ただ、いるとするなら、こういう目をしてるんだろうな。

144: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/02(日) 19:26:43.38 ID:AVbyTqW30
ダンカン「そういえば、お前、
昼休みに真田とどっか行ってなかった?」

前田「え、まじで? こいつ、真田にヤキ入れられてるの?」

確かに、真田となると、そっちしか連想が及ばないわなwww

石橋はダンカンがこの話題を持ち出すのを待っていたはずだ。
あくまで自分からではなく、ダンカンから。
前田も同席しているわけだから、
余計にそのあたりは慎重になるはずだ。

ダンカンは集中力がすぐに途切れる。
話があっちこっちに飛ぶので、いつか昼休みの話にはなるだろう、
その読みは石橋にもあっただろう。
だから黙ったままだったのだ。

石橋「そういえば、ダンカン、真田って謎だよな」

そして、狙った展開になれば、
ダンカンの単純な好奇心をさりげなく刺激して、
話題が他に飛ばないように固定させる。

石橋はクソでムカつく奴だが、
ダンカンコントロールの腕は一流だと認めざるをえない。
ダンカンのスイッチの全てを把握している。

145: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/02(日) 19:27:56.05 ID:AVbyTqW30
ダンカン「そうそう、謎だよなぁ。
出川、お前、昼に真田となんの話してたんだよ」

真田はバイトの件を切り出したら、喜んでくれた。
さっそく、次のバイトの日に店長に話をしてみる、と言っていた。

前田「出川、なんか真田をムカつかせたんか?」

真田が俺に
「店長とナシついたら、電話すっからよ」
と言われたことなど、知ったら驚くよな。

石橋は口を挟まずに、タバコを吸っている。
興味がなさそうなフリをしているが、
お前にとっては、とてもとても重要なことだよな。

この時すでに俺は、
前田やダンカンと話をしながらも、
石橋と「探り合い」をしていた。
「他者との会話」という体裁をとった、心理戦、情報戦である。

146: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/02(日) 19:29:15.71 ID:AVbyTqW30
石橋「俺りゃ、関心ねーけど、
コイツが真田をムカつかせるとか、そりゃ、ねーんじゃねーのか。
これだけの根性なしが、真田に調子くれるとは思えねー。
ま、どうでもいいけどな」

やっぱりガキだな。
本当に関心がなければ、関心がない、なんて言葉は出ない。
好きの反対は嫌いじゃなくて無関心だ。

想像してみろ、石橋。
お前はやるのか?
隣のクラスのどーでもいい女を呼び出して

「急にごめんね。実は話があって。
俺は君のことに、関心がないんだ」

ありえねーだろwww

前田とダンカンのことは、
上っ面の言葉で騙せたとしても、俺にはまるっとお見通しだ。

ちょこちょこダンカンの軌道修正入れやがって、
うぜー奴だな、石橋。

147: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/02(日) 19:30:01.33 ID:AVbyTqW30
ダンカン「だったら、なんの話だったんだよぉ、出川。言えよぉ」

ダダをこねる子供の口調のダンカン。





「真田とは一緒に勉強してんだよ! 
バイトだって、一緒にやるんだよ! 
今日だって学食奢らせてたんだよ! 
マブなんだよ、マブ。マ・ブ・ダ・チ。
てめえら、調子こいてっと、まじでヤラれっぞ。
俺が真田に一声かけりゃーよ、
バラ中の悪どもがソッコー駆けつけることになってんだよ。
さらわれっぞ、てめーら。
死んだな、お前ら、死んだな」




ここまでのハッタリは無理があるにしても、
俺と真田の仲が良いアピールをすれば、
しばらくこいつらは手を出してこないだろう。

しかし、俺はハッタリも、
そして、ありのままのことも伝えずに、こう答えた。

俺「バイクの件で、先輩が話あるっていうので、連れて行かれた」

なるべく真田と俺に、今後も友人関係が発生しないような雰囲気で
話を組み立てた。

同時に、俺は嘘をつかないことを自分に課した。

石橋には事実を並び替え、編集して伝える。
つまり誤解させるのだ。

嘘をつかない理由は一つだけだ。
万が一、石橋と真田がこの件で話をしても、
俺が嘘をついたとならないために。

嘘をつかずに、いかに石橋にはミスリードをさせるか?
言葉足らずな俺のコミュ障も役に立つはずだ。

使える道具はなんでも使う。
俺は自分のコミュ障もこの時はハンデにはせずに、
武器として振り回すことにした。

149: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/02(日) 19:31:13.66 ID:AVbyTqW30
俺は石橋に、しばらく真田と俺が仲良くなる可能性を
微塵を見出させたくなかった。

見せればイジメが軽減するかもしれない。

しかし、イジメが継続されるにしても、
まだまだ、真田と接近してようとしている俺の思惑を、
石橋に悟られるわけにはいかなかった。

ダンカン「バイク?なんの話だよ、それ」

俺「あうあう。分からない。あう。
俺、緊張すると喋れなくなるから。あう。」

前田「知ってるwww」
ダンカン「知ってるwww」

石橋だけ笑わなかった。

前田「今もテンパってんじゃんwww
出川。ちゃんと喋れwww」

俺「あう。先輩の友達のバイクがイタズラされて、
その犯人を捜してて、あう。で、なんか知らないけど、
俺とその先輩が挨拶をした」

前田「なんだ、単なる調査かよ。ってか、なんで、出川www」

俺「あう。俺は分からない。バイクは沢山、あう、近所に停まってる」

頼むから、気づいてくれ。

150: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/02(日) 19:40:54.86 ID:AVbyTqW30
頼むから、気づいてくれ。

ダンカン「そうだよな。なんで、出川なんだ。
コイツに訊いても意味ねーじゃん」

前田「中学もちげーし」

少しは頭を使ってくれよ。

ダンカン「真田はなんか言ってねーのかよ?」

俺「あう。頭パニックで、あまり覚えてない。
あう。ちょっと付き合え、言われたから、
黙って着いてっただけだから。うち貧乏だし」

これも嘘ではない。
付き合えと、貧乏に、脈絡がないがなwww

ってか、ほんと、気づけよ!
ヒントいっぱい、入れただろ!!!

石橋「ああ、コイツ公団だからかもな。
駐輪所も多いし、あそこ最近はやたらイタズラ多いらしいな。
俺の先輩も公団だから、そんな話をきいたわ。
イタズラされた先輩ってのが、公団にでも停めてたんじゃね?」

GJwww

そして、馬鹿がwww
ちょこっとだけ頭回る分、勝手に結論を先走るな。
まだまだだ石橋。

151: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/02(日) 19:42:12.47 ID:AVbyTqW30
ダンカン「なるほどねー」

普通さ、おかしいと思うだろ?

俺がバイクの区別つくと思うか?
見ろよ、この格好。
どう見ても、バイクよりガンダムだろ。

さらに、公団で事件があったとしよう。
あれだけクラスのことに無関心な真田が、
俺の個人情報、つまり、
公団に住んでるなんて知ってると思うか?

さらにいえば、真田が先輩に言われて、
素直にそんな使い走りをするタイプか?
てめえらとは違うんだよwww
真田さんナメなよwww
3年も気を使ってんだよ、真田にはwww

俺「俺は真田に、あう、質問とか、
あうあう、出来る雰囲気じゃない」

ダンカン「お前にきーてねーよ」

蹴られた。
石橋は俺を見つめたままだ。

俺「隣に座ってるけど、あう、ぜんぜん喋らないし、
話しかけても、あう、反応は予想できるし」

話しかけたことないぞ。
そして、予想できる反応はな石橋、
お前の頭に今浮かんでいるものとは180度違うけどな。

保険の意味もかねて、
石橋に促したミスリードを決定的にしておいた。

石橋「ま、100年はえーよ」

100年後は115歳だから、たぶん、みんなチンでるよ。
チーン。

152: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/02(日) 19:43:16.15 ID:AVbyTqW30
石橋「なんかコイツと喋んの、飽きたわ」

明らかに石橋は機嫌が直りつつあった。
俺が真田と接近していないことを、感触で掴んだのだろう。

ダンカン「つまんねーんだよなぁ、出川って」

前田「そろそろ5時だし、着替えて、
ひょうたんプラザ集合しよーぜ」

ダンカン「そうだな。もういいや、出川、行けや」

石橋、飽きたんじゃなくて、
欲しい情報を全て吸い尽くしただけだろ。
前田、ダンカンは額面通りに受け取っても、
俺には分かるぞ、お前の真意が。

俺はお前の上手(うわて)を行ってやる。
絶対に出し抜いてやる。

まだまだ真田と本格的な同盟関係を結んだわけではない。
あやふやな状態で真田を「使う」ことはかえって危険なんだ。

石橋が暴走するとしたら、真田が絡んだ場合だ。

中途半端な状態で真田を触媒に使って石橋をけん制しようものなら、
真田と俺が離れた場合、その2倍、3倍の報復が待っている。

学食の件、読書感想文のことをここで明らかにするわけにはいかない。

俺は今日の会話の中で、石橋が何を恐れ、何を目指しいてるか、
俺なりに把握したつもりだった。

石橋は安心しただろう。

153: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/02(日) 19:44:21.03 ID:AVbyTqW30
フン。せいぜい、見下ろしてろ。

もしかしたら、うまく舞台を整えて、道具を揃えれば、
石橋を叩き潰すことが出来るかもしれない。

イジメから逃れることが第一義であったが、
出来るなら石橋を地獄に落としたい。

まだ漠然とはしているが、
うまくハマれば石橋の学園生活を
残酷なものに出来るかもしれない。

真田と仲良くなるには、まだ時間がかかるはずだ。
時間はかかる。
が、自信はあった。

違う闘いに引きずりこんでやる。
それまで、チャンスを待つ。

石橋の靴のつま先を眺めながら、俺は奥歯を強く噛んだ。

そして、想定外の形ではあったが、
チャンスは意外に早く訪れることになる。

154: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/12/02(日) 19:46:17.15 ID:AVbyTqW30
ってことで、お前ら、今日も俺の裏チラ読んでくれて、ありがとな!
また、次回!
SEIYUでフルボディのカベルネソーヴィニオン買ったんだよー。580円だぜー^^
これから飲むんだ。いいだろ、お前ら。羨ましがっていいぞwww