922: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/25(日) 18:05:11.92 ID:IhMfSZqi0
意外に思うかもしれないが、
先輩にあいさつするはけっこう簡単だった。

同じ年のDQNやら、女子に対するよりも、気が楽なのだ。

俺は思う。
緊張の正体とは
「いつもより上手くやろう」
「ちょっとでも、よく見せよう」
という欲から来る。

同世代に対して
「馬鹿にされたらどうしよう」
「気持ち悪いと思われたどうしよう」
という恐れが、俺のコミュ障を加速させていた。

怯えながらやってると、
余計に恐れている事態へと突入していく。
悪循環なのだ。

一方、出会った瞬間から上下関係が決まっている先輩が相手となれば、
DQN的な怖さはあっても、こちらのスタンスに迷いがない分、
向き合うにしいても難易度は下がる。

恐ろしい先輩方には
「隣、失礼します」だの「お邪魔します」
と頭を下げた。

タメ年の石橋、ダンカンが相手ではないのだ。

頭を下げて当たり前の相手に対して、
敬語で遜(へりくだ)ることに、なんの抵抗もない。

ましてや、真田の先輩である。
せっかく誘ってくれたのに、真田の顔を潰してたまるか。

925: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/25(日) 18:26:32.86 ID:IhMfSZqi0
真田「このカツ、ペラペラだけど、悪くねーんだよ」

温かい食事だった。
そして、誰からも取り上げられることがない食事だった。

真田「醤油とソースをちょっとずつかける奴もいるから、
味、足りなかったら、やってみん」

久しぶりに後を気にせずに食事ができる
(ゴルゴかよ、俺www)。

俺は真田の真似をして
最初の二、三口は何もかけずにカレーを食べた。

カレーというよりも「学食のカレー」という
独立した食い物だ。

そして、ソースをかけて、ほんの少しだけ醤油を混ぜた。
味に変化が出た。

カツはペラペラであったが、
揚げたての衣は固い黄金(こがね)色をしている。

自分なりに味を整えたカレーをたっぷりつけて、口に入れた。
サクッサクッという音と一緒に、肉の味がした。

学食は混んでいるが、
俺たちのいるところだけ、スペースに余裕があって快適だ。
2年はおろか、3年のヤバイのさえも寄ってこない。

騒々しい学食であったが、静かな気がした。
しばらく無言で真田も俺もカツカレーを食っていた。

時おり、プラスチックの容器を、
金属製のスプーンが叩くカッという音がした。

927: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/25(日) 18:39:48.87 ID:IhMfSZqi0
真田「あの本よ、読まないつもりだったけど、
手に取ってみると、けっこう面白かったわ」

俺「あうあう(顔は一応ニッコリしてる)」

他愛もない話もいいもんだよねー。
うん、高校生活って感じだ^^

なんて時間が俺の人生で長く続くわけはない。
いきなりこのテーブルに緊張が走った。
平和な時間が少ない学校だね、ほんとに、ここは。

2年のかなり目立った先輩が、駆け足気味に挨拶に来た。

3年の先輩たちは、真田の時と違ってやたら威圧している。

2年1「失礼します!」

2年2「失礼します!」

3年1「おぉ、来たか。おめえらよー、
溝口とかどーなってんだよ。
あいつバックれたままんじゃねーか?」

即座に地蔵モードに戻る俺。
アストロン!

2年1「すんません!ちゃんと連れてきて、
ケジメつけさせますっ」

ケジメとか言葉嫌いなんですけど、あたし。

3年2「あんまりカッタルイことやってっとよ、わかってんべ?」

なにそれ、脅してるつもり!?
あたしのこと、脅してるの!?

はい、後輩脅してるんですよね、分かります。

2年2「自分ら、分かってます」

2年1「はい!分かってます」

928: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/25(日) 18:41:49.07 ID:IhMfSZqi0
3年1「いいや、もう、いけよ。メシがまずくなる。
とにかく、溝口のガラさらってこぉよ」

ガラってなぁーに?
鶏がらスープのことかしら?

後日で柴田から
「ガラ?おめ、何言ってんだよ。身柄のことだよ。
鶏がらなわけねーだろ。ダシとってどーする」
と教わった。

それはさておき。

2年2「はい、明日中には連れてきます。
すんませんでした。失礼します」

2年の連中の口のきき方もは、
真田のような砕けたものではなく「押忍」とか出そうな勢いだった。

真田は2年を無視してリンゴジュース飲んでる。
ちょっと可愛い。
ってか、お前、知らない人間にほんと冷たいよなwww

俺は一応、頭を下げておいたぜ。
一瞥くれられた後、無視されたがなwww


940: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/25(日) 21:34:38.82 ID:IhMfSZqi0
2年が去ると、3年が話しかけてきた。

3年1「真田ぁ、馬鹿な2年がよ、加藤の単車いじったらしくてよ、
どうも溝口って奴らしいんだ」

真田に話しかける時だけ、目が優しいのね、あんたたち。
ホモなんじゃなの?
フン。

大して興味がなさそうな真田である。
真田という人間は、人との関わりを避けている気がする。

この3年は明らかにバラ中出身であろう。
それは、話の流れで分かった。

真田は基本的にちょっとやそっとの顔見知りに
心を開くことはない。

先輩だからと言って媚びるような奴でもない。
好きだから、笑って話をするし、
近くのテーブルで食事をするのだ。
この3年連中とは付き合いが長いのだ。

ただし、たとえば3年連中のトラブルの相手など
自分と直接関係ない者にはまったく興味を示さない。

不思議だった。

真田は俺のようにコミュ障でもない。
しかし、明らかにクラスでも孤立している。

バリアを張って、独り屹立している。

何か理由があるのだろうか?

941: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/25(日) 21:37:00.84 ID:IhMfSZqi0
真田を知る上で、大事な要素になるので、もう一度書く。

彼が他人を寄せ付けないことに、何か理由があるのだろうか?

高速で頭をフル回転させる地蔵の横で、
真田は首をポキポキ鳴らしている。

真田「へー、そうなんすか?」

真田も返事なんかしないでいいのに。
今、誰と食事してんのか、分かってんのかなー?
自分から誘ったくせに、フン。
なんかツマラナクなっちゃったかもー。

3年2「俺らもよく知らねー奴でよ、
2年シメてる奴らに言って、探させてんだ」

すぐ人を使うのね、あんたたちって。
フン。

そして、あまりに真田と3年がフレンドリーだから勘違いしていたが、
本来、DQNの上下関係というものは厳しい。

後輩は先輩に忠誠を誓い、逆らうことは許されない。

先輩連中も後輩にナメられることが、
最大の恥だと認識していて、対後輩とのトラブルになると、
いきなり団結する。

口のきき方ひとつ間違えば、
他の先輩も出てきて、ややこしいことになる。

普段は反目し合ってる勢力同士であっても、
こと後輩を追い込む場合においては、協力体制を敷く。

余計に後輩は先輩に手を出すわけにはいけない。

後輩も後輩で先輩に対して絶対服従となる代わりに、
安全が保障され、自分の後輩に対する支配権が認められる。

942: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/25(日) 21:43:36.24 ID:IhMfSZqi0
こういった封建主義的制度は、
DQNの世界を構成する土台である。

大きな土台だ。

そんな古典的な師弟制度に似たものに、
酔ってる節さえ感じられる。

馬鹿じゃかなろうかwww

しかし、どんな世界にも例外はあるのもので、
真田はおそらくこのルールに当てはまっていない。

俺は、真田らが中学1年の時に、
連日2コ上の先輩にわざわざヤキを入れてもらいに通っていた、
バラ中伝説を思い出した( >>323 参照)。

3年にしたところで
「コイツらがやってること、自分に出来るか?」
と自問すれば、下を向くしかない。

それほど、真田たち4人の伝説は際立っていた。

真田のことを年下であってもリスペクトしている。
内心は恐れているのかもしれない。
認めたくないから、敬愛なり特別に可愛がっているという
アプローチで落ち着いたのかもしれない。

そこはよく分からない。

この3年連中もDQNとしてはかなりの者たちであろうことは、
テーブルを見れば初心者の俺でも分かる。

あの強面の2年には、鋭さしか見せない3年連中が、
形ばかりの敬語を使う態度のデカい真田に対して寛容なのは、
それだけ真田が特別ということだろう。

943: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/25(日) 21:50:58.18 ID:IhMfSZqi0
俺、GJwww
真田やっぱりすげーな。

想像以上の大物吊れちゃったかなwww
おひょひょひょひょ。

と浮かれているわけには行かない。

メシを奢ってもらったことで、貸し借りはなくなっている。

早く、新しい貸しを作らなければ。

そう、クリエイトしなければならない。

幸運の女神には前髪しかないという。
つまり、出会った瞬間に迷わずに掴まなければ、
チャンスは逃げるというコトワザだ。
(前髪しかない女神とかちょっと気持ち悪いけどな)

真田は俺がいなくても、なんの影響もない。
しかし、俺は真田なくして、
この暗黒の高校生活を生き延びる算段はつかない。
仲よくならなければならない。

俺は、リンゴジュースにストローを指すと、
オヤジの言いつけ( >>439 参照)どおり、
矢継ぎ早にならないように注意しながら、真田に質問を始めた。

真田「ん?そうだなぁ、別に困ってることはねーけど、
バイトきついわ。例のファミレス以外にも、
たまに知り合いの居酒屋も手伝うんだわ」

ちゅぅううう(俺がジュース飲んだ音)
バイクでも欲しいのだろうか?

俺「なんか欲しいもの、あう、ある?」

真田「別にねーけど、まぁ、やること、ねーしな」

ちゅぅううう(俺がジュース飲んだ音)
家庭の事情くさいな。
ここはまだ突っ込むべきじゃない。

発する言語とは裏腹に、俺の頭は猛スピードで回転していた。

944: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/25(日) 21:55:13.87 ID:IhMfSZqi0
真田「居酒屋は知り合いってこともあって、
ヘルプなんだけど、わりと突然声がかかるんだよなぁ。
ファミレスとカブると行けねーし。
せっかく声かけてもらって、悪りぃなぁとは思うけど、
しょうがねーべ?」

ちゅぅううう(俺がジュース飲んだ音)

さすがの真田もシフトだけは
気合じゃどーにもならないよねwww
物理的に無理だからwww

真田「ファミレスも最近、混んできてっからよ。
で、先週も1人辞めやがったから、
店長に誰か紹介してくれとか言われてんだよ。
つってもよ、急に見つかっかよなぁ。
安心して紹介できるようなちゃんとした奴ぁ、
とっくにバイトしてっしなぁ」

ちゅうう
ちゅ?

ん?

ちょっと待てよ。
これ、チャンスなのではなかろうか?

俺が真田のバイトに入る。
それだけでも親密になれるが、
真田の急用の時に、俺が代理で出れば、かなり助かるはずだ。

そして俺はバイトを探さなければならない家庭の事情がある。

問題は、どうやって話を持っていくか、だ。

バイト入ってやるぜ!オラオラオラオオラ、
といってあからさまに恩を売る、というのは一つ。

しかし、これは悪手だろう。

945: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/25(日) 21:56:19.85 ID:IhMfSZqi0
俺「紹介しろって話、あう、けっこう急ぎなの?」

真田「まぁ、俺は一番年が下だしよ。
店長も言いやすいんだろうな。
俺に言いながら、他のバイトにも
圧かけてるって感じじゃねーの?」

真田を使って周りにプレッシャーかけるとか、
やっぱり大人って次元が違うわね・・・

一連の真田とのやりとりで、俺はほぼ確信したことがある。

真田は実はかなり人に気を使う。

人とあまり話をしないのは、
そういう人間関係が鬱陶しいのかもしれない。

関われば、気を使ってしまう。

バラ中伝説は、滑稽なくらい
仲間を大事にするエピソードが盛りだくさんだった。
仲間という属性が嫌いな人間とは思えない。

しかし、高校での真田は仲間が出来ることを拒絶している。

俺が無理矢理予想するとすれば、
真田は自分の気遣いな性格を
持て余しているところがあるのではなかろうか?

そして、裏切られた経験も一度や二度じゃないだろう。
俺に対してさえ義理堅い真田である。
そこらへんのこだわりの強さは、すでに垣間見れている。

だからこそ、バラ中の仲間3人くらいの濃密な関係か、
あるいは無視か、
という極端な姿勢になるのではなかろうか?

946: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/25(日) 21:57:27.89 ID:IhMfSZqi0
もしも真田が俺の読み通りの人間であれば、
まさに好都合である。

入り込めば裏切らない。
そして、簡単に誰にでも扉を開けているわけではない。

石橋・ダンカンの防波堤として、これ以上ない。

なにより、真田は軍事力として最強だ。


          ,      /〃ハヾ  / ∧∨〃、ヾ} l| :}ミ;l\
        /〃// / 〃l lヽ∨,〈ヾ、メ〈 }} ;l リ ハ l`!ヽ.
          //' /,'  ,' 〃 l l川/,ヘ丶\;;ヽ/:'/〃∧ l ト、:l !
         〃,'/ ;  ,l ,'' ,l| レ'/A、.`、\;;ヽ∨〃/,仆|│l }. |、
         i' ,'' l| ,l ' l. !| l∠ニ_‐\ヽ;\,//,イ| l | l ト/ λ!   、
.        l ;  :|| ,'i:/ l| |:|: |``'^‐`ヾ∨`゙//|斗,l ! | ,タ /l.| l  三__|__
       l ' l |」,' l' lハ |'Ν    ̄´ /` ,|l_=ミ|! ly' ,〈 :|| |  口 |
        |l .l H|i: l | ゙、| l        _.::: ,!: l厂`刈/ /!} :l|    ‐┬‐
        |! :l |)!| ! |  ヽ      '´ ’/'_,.   ノイ.〃/|!    │田│
        l|l |l 「゙|l |`{             ..   _   |}/,ハ l     ̄ ̄  
       |!l |l、| !l :|.      ‘ー-‐==ニ=:、__j:)  l'|/|l リ    、 マ
ヽ ̄ニ‐、__.」乢!L!lヱL」__           ー、 `'''´   从「 /     了 用 
 \ `ヽ\      /l |       / ̄´     //        '"`ー‐
.  ,、  l  ゙、    / ' |、      {        /l/         ,
   '}  l  ゙,    /   |:::\      }     ,.イ/          レ |  
   l  l   l  ,.イ   l:::::::::\__   `'-‐::"// |′          ノ
   l   !   K ヽ,、 \「`''''''''"´:::::::;;:" //          
.    l   l   ト、\( _.... ヽ  .:.::::::::;;″ /'       _    
\   |  l|  八、ヽi´    | .:.:::::::::::::i' .:/'"´ ̄ ̄ ̄ ,.へ\

947: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/25(日) 22:12:45.65 ID:IhMfSZqi0
真田「賄(まかない)も出て、
俺はいい職場だと思ってんだけどなぁ」

なるほど。
賄か。いいねいいね。

しかも、ファミレスのバイトといえば、
高校生だけじゃなくて、パートもいれば、大学生もいる。

であれば、年下の方が使いやすいし、歓迎されるかもしれない。

女子大生。
悪くない。ああ、悪くないぞ。

俺は一度行ったので、だいたいのことは把握している。
俺、一度、あのフリフリしたファミレスの制服来た女、
後からやりたいと思ってたんだよねー。

うひょひょ。

俺「あう、俺、バイト探してる。俺じゃダメかな?」

真田「え?まじで?」

俺「俺、そしたら真田が居酒屋行くときとか、
代われる。あう、俺できる」

真田「でも、出川って金持ちって話じゃなかった?」

うといな、真田。
お前はクラスの事情をまったく分かってない。
ダンカンたちの話をちゃんと聞けよ・・・
いつも俺のこと貧乏貧乏って馬鹿にしてるだろ・・・

あいつら、金持ちが転落したってことで、余計に嬉しいんだよ。
相手は俺だし。

949: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/25(日) 22:18:10.25 ID:IhMfSZqi0
さて、ダンカンの話はどーでもいい。
大事な局面に差し掛かった。

真田「そりゃ、出川は真面目だし、
来てくれりゃ助かるけど、いいのかよ?」

ここも賭けの要素が強い。

困った真田を助けるためにバイトに入る。
これは分かりやすいし、簡単に恩が売れる。
しかし、悪手としか思えなかった。

俺はあくまで

・俺の事情でバイトを探していた
・それがたまたま真田のプラスになった。

という形になることを望んでいた。

恩を売るならば、これからいくらでも、
直接的なチャンスはある。

まずは、真田の近くに自動的に俺が存在する環境を作る。

そして俺が埋伏させた毒としては、
真田にいつか「コイツは俺が気を使わないように、
自分が困っているふりを大げさにして、
俺を助けてくれたのではないか?」
と思わせることだ。

それは今すぐでなくていい。

復讐のスープは冷めた頃が一番美味い、と言う。
逆もまた、しかりだ。

俺は意を決して、真田の目を直視して、はっきり伝えた。

俺「いや、昔は金持ちだったけど、今は金に困ってる。
俺はバイトを探していた。
結局不採用になったところで、俺の問題だ。
真田に迷惑がかからないなら、店長を紹介してくれ」

最後まで言えた。

チャイムが鳴った。

950: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/25(日) 22:19:06.67 ID:IhMfSZqi0
ってことで、今日もお前ら、ありまとな!
また、次回!