最初から読む方は↓
ボンボン転落してDQN、金の亡者の話 その1
424: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 12:59:55.08 ID:uMLYKxP/0
俺は勃起の罪により、DQNによる臨時軍法裁判にかけられた。

石橋、ダンカン、的場の耳障りな笑いの中、恥辱に耐えていた。

のだけど、午後の授業中も再び「目覚めて」いた。

斜め前の後藤の背中である。
腰のくびれ、いいよ、くびれ。
足元の素肌も見つめた。
充分に見つめた。
角度的には、見えるはずもない胸の質感をも想像していた。

イマジネーション(英語使ってみた)。

狂おしい情動と自己嫌悪のはざまで
「チンポ切ろうかな、まじで」
などと半ば本気で思いながら、シャープペンシルをくるくると回す俺に、
再び衝撃が訪れる。

(関係ないけど、ゴマキがAV出るってほんとかいな?
週刊実話にあったけどわざわざ「実話」とつける胡散臭い雑誌だから、
あまり期待しないでおく。
とは言いながら、期待しているのはお前らと一緒だ!
発売されたら、みんなで観ような^^)

この日は事件が多い。
俺の人生のターニングポイントだから、記憶が比較的鮮明だからか、今となっては分からない。
残り1コマで授業が終わるという休み時間に、真田が話しかけてきた。

そう、真田が話しかけてきたのだ!

429: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 13:27:21.30 ID:uMLYKxP/0
真田「なー、ちょっといいか?」

何度か書いたが、真田はクラスの連中とは話さない。
俺が喋ったのも一度だけだ
おそらく俺は驚きのあまり、ビクビクゥウウウン、となっていただろう。

ダンカンだったら
「逝った・・・コイツ、逝きやがった!!!まじ、きめえwww」
となるくらいの勢いじゃなかろうか?

俺「いい。あう。いい。大丈夫」

挙動不審過ぎて、幼女が相手だったら通報されるレベルである。

さらに言えば、

ビクビクゥウウウン、いい。あう。

って、
どんなホモスレだよ・・・

ま、いいとして。
土曜日だし、サクサクいくぜ。

436: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 14:20:43.73 ID:uMLYKxP/0
真田を利用して暗黒の学園生活を乗り切る。
この発想は結論から言えば正解だが、
短期的には恐ろしい失敗となる。

いずれにしろ、まずは自分の戦力を分析しなければならない。

えっと、戦闘力。
165cm、50kg。
力はない。
走るの遅い。
反射神経、鈍め。
喧嘩、弱い。
というかしたことない。
小学生の頃に、ちょっとやった。
それも低学年の頃だけ。泣いたら終わりのやつ。

つまりだ。
ラディッツのスカウターで確認することもなく
「戦闘力たったの5か…ゴミめ」
である。

437: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 14:24:02.99 ID:uMLYKxP/0
俺が「この世界」で奴らに勝てるものは勉強しかない。

イジメられっ子特有の論理であるが、
俺は急激な変化と異常な環境におかれたせいで、
学生時代であれば内側に向かう勉強という行為を、
外側に向けて武器として使用するようになる。

当時、ゲーム理論知らなかったが、
田中角栄の贈賄手法には強い興味を覚えていた。
オヤジが土建屋だったため、
角栄のネゴシエーションの凄さについては、何度も聞いていた。

「望みはなんだ?大臣のポストか金か、どっちでも用意できる。
言ってくれ。そして、相談だ。俺の要求はこうだ。頼めるか?」

料亭で行われるシンプルかつ有無を言わせぬ交渉。
角栄の角栄たる所以は
「まずは相手に与えるところ」
にあった。

真田に貢献するには、この方法を使うしかない。
今、問いかけられている

「あれ、何書きゃいいの?」

は、俺の人生における、リングでありステージだった。
最重要プレゼンテーションの場だ。

俺は高校に入ってから、
初めて
まともに頭を使った。

438: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 14:31:21.65 ID:uMLYKxP/0
真田を前にして(ほんとは横にしてだが)、
俺は高ぶりを抑えながら、とにかく頭を回転させていた。

エリートヤンキー三郎の
河井星矢が日常的に追い込まれると発動させている、あれだ。

俺はコミュ障だったが、当たり前だが知能はある。
どうやって喋ればいいか?の理屈は知っている。
大脳皮質に問題があって、発音できないとか
そういうんではないのだ。
萎縮してしまって、うまく出来ないだけだ。

コミュニケーションの理論というのは色々あるが、
失踪した父親から営業の極意はよく伝授されていた。
頼んでもないのにな。

「人に媚びて、面白いか?」としか思っていなかったが、
金を稼いだこともないガキの感想だわな、これは。

営業とは究極のコミュニケーションである。

439: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 14:32:54.78 ID:uMLYKxP/0
オヤジは俺に
たとえば、こんなことをドヤ顔で言っていた。

「いいか、仲良くなるためには、質問をすることだ。
多くの人間は、自分に関心を持ってくれている者に心を開く。
つまり、営業において質問をするということは、
相手が欲しい商品を聞き出すと同時に、
仲よくなる、
ということも行う。
分かるか?出来る営業がベラベラ喋るなんて嘘だ。
最初は聞き役に徹するんだ」

あるいは。

「客の欲しい家というのは、実は客の中で決まっている。
たとえば、山田さんがいるとしよう。
山田さんが家を欲しいと思う理由は、
上司の家でやったバーベキューが決め手だった。
この情報を知らずに、山田さんは都会が好き、通勤で疲れている、
という通り一遍の事前情報だけから
都内の良い場所に3階建てを提案しても、まったく響きはしない。
無能だと思われるだろう。仕事もパーだ。
だったら、通勤に時間がかかっても、郊外の庭がある、
バーベキューが出来る家を提案しないとならない。
細部はもちろん、プロっぽいところを見せないとダメだけどな。
そこで初めて客は聞く耳を持ち、
優秀な建築家だと評価してもらうことになる。
断言しよう。優秀な建築家を素人が見抜くなんてことはないんだ。
不可能だ。
自分のことを分かってくれている人物が優秀に見える。
カラクリはそれだけだ。
そこを勘違いすると、努力の意味がまったくねーぞ」


けっこう適当なところはあるが、だいたい↑みたいな内容だ。

440: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 14:35:13.90 ID:uMLYKxP/0
夜逃げ前のオヤジは、銀行のATMか何かだと思っていた。
夜逃げをしてからは、恨みつらみしかない。

ここで俺は
「オヤジの小言」
を実践する気になったのは、
すでに追い詰められていたからだろう。
すがるものもなかった。

まず、真田の本当の意図を聞かないといけない。
そして、
俺に相談して良かったと評価されなければならない。

真田が都心に住みたいのか、
あるいはバーベキューがしたいのか、
まずはその見極めが必要だった。

俺「えっと、あの、良い点数とりたい?
それとも、えっと、楽してまぁまぁがいい?」

YesかNoを迫るのは悪手である。
2つのYesを用意して選ばせる。
これはセールストークの基本である。
話を進めるだけでなく、相手をポジティブにさせる環境も
整えるのだ。

441: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 14:35:59.72 ID:uMLYKxP/0
真田「なんだ、すげーな。色々あるのか?
点数いいに越したことはねーけど、留年しねーなら、
それでいいかな。
色々あっから、出来るだけ時間使いたくねーし」

コミュ障ながら、
真田とは少し話せる自分が不思議だった。
おそらく、石橋、ダンカンが恐れているほど、
真田は恐ろしい人物でない。
筋から外れなければいいだけではないか?

闇雲に人をイジめる石橋やダンカンの方が、
人間としてよっぽど恐ろしいと思う。

また、同じ年ながら、真田は落ち着いていたし、カッコ良かった。
俺はギクシャクしながらも、この真田との会話を楽しんでいた。

ホモ談義はいいとして、読書感想文は国語の中間テストの一部に
点数として組み込まれるという話があった。
つまり、ここで点数を稼いでおくと、テストに有利でもある。

俺「あうあう、分かった。楽する。点取る」

インディアンかよ、俺www
でも、必死。

442: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 14:37:51.73 ID:uMLYKxP/0
真田「でもよー、俺、本なんかほとんど読んだことねーから。
キツそうだわ」

それ、最初に言おうな、真田・・・

だが、課題は難しい方がいい。
真田に本を読ませずに、読書感想文で良い評価を得る。
しかも真田の自力で。
俺は「代わりに俺が書くよ」というカードは切らなかった。
なんとなく、それは真田の美意識に反するような気がしたのだ。

いずれにせよ、この難問を前に、
出来るのか?そんなこと、というのはあった。

いや、出来る出来ないじゃない。
俺の武器は知能だけだ。

この勝負は絶対に勝つ。

相手が誰なのか、いまいちよく分からんが、とにかく勝つ。

しかも、俺は絶対に圧勝してやる!

443: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 14:39:29.01 ID:uMLYKxP/0
真田のリテラシーは低そう(後に分かるが、けっこう笑える)。

俺「質問、いい?」

真田「ん、何?」

俺「いつも聴いてる音楽、何?」

真田「ああ、これか?パンク」

真田はいつも持っているウォークマンみたいなものを指差した。

パンクってなんだよ・・・
俺は中島みゆきとか好きだけど、きっと違うよね?

俺「えっとえっと、パンクって元はなに?」

真田「ジャンルのこと言ってんのか?」

俺「うん、あう」

つないでおけ、とにかく話をつないでおけ。
その間になんかアイデアが出るかもしれん。

444: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 14:48:01.47 ID:uMLYKxP/0
真田「うーん、まぁ、一応はロックの一種じゃね?
もともとロックやりてーけど、楽器が下手な奴が
とにかく文句を絶叫するって感じだからな」

まさにDQNですね・・・

俺「ロック、ロック」

ロックかぁ。ビートルズってロックだったような。
すでに教養の領域にも入ってそうだから、なんとかなるかな。
図書室にロックミュージックの歴史だかもあったはずだ。

俺「図書室にある、ロックの本。代わりに借りてくる。
俺、よく行くから知ってる。
それ借りてくる。俺、渡す。それ、読む」

真田「いいんか?なんか悪りぃな。図書室とか何階にあるのかも忘れたわ(笑)。
でも、長いんだろ、その本」

俺「目次だけ。あう。目次を読みながら、思い浮かんだこと書く。
でるだけ、語尾を統一。ですます、いらない。である、だ、でいく。大人、これ好き」

真田「そんなんでいいのか?」

俺「だいじぶ、だいじぶ。
それで、それで、作者の終わりの方の言葉を
コピペ(この時、コピペなんて言葉ねーけどな)する」

真田「なんか、出来そうだな」

真田が微笑んでくれた。
俺も媚びた笑いを浮かべる。
そうとう気持ち悪い顔になっていたはずだ。

447: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 14:58:16.02 ID:uMLYKxP/0
あれだけ音楽を聴いている真田であれば、
ロックの歴史の目次から連想されることをツラツラ書いても
字面を埋めることはできるだろう。

しかし、これでは及第点にはなるものの、
高得点になるかと言えば疑問だ。

ここは教師の心をくすぐる何かを、
スパイスとして加えなければならない。

馬鹿な教師が喜びそうなシチュエーションを考えると、
DQNが自分の授業で真人間になる、というメルヘンあたり
チンポ立つんじゃね?という下種な予想を立てる俺。

そのあたり、あまり露骨にやるとおかしくなるが、
ちょろちょろ触るくらいはいいと睨む、悪そうな目つきの俺。

さらに「感想文の出口」を真田に明示した方が、
連想も脈絡のないものではなく、一応の連続性が発生すると予想。

俺「最後、にこう書く。コピペの後に、・・・と作者は結んでいるが、
私も同感である。
たとえば、こういった音楽を通しても、世界が一つになり
世界から戦争がなくなることの一助になれば、とも考えた。」

ジョンレノンが失敗した実績ありますけどねwww

真田「戦争なくならねーだろ?パンクは逆に増えるかもしれねーぞw」

俺「だいじぶ、だいじぶ」

無責任に力強く、何度も何度も頷いた。
真田もその気になったようだ。

448: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 14:59:44.37 ID:uMLYKxP/0
国語教師の観察は続けていたが、
ロックとかパンクに知悉しているとは思えなかった。

ドストエフスキーやらシェイクスピア、漱石なんぞを選んだ方が、
粗が目立つ分、逆に危険である。

みたいなことも伝えるべきなんだろうけど、
必要最低限のことを喋るので精一杯だった。

真田「まじかよ。なんか、すげーな。今後、タバコ奢るわ」

ありがたいお話ですが、吸いません・・・

俺「あうあう、あうあう」

ジョジョの奇妙な冒険の杜王町覚えてる?
あれでさ、東方仗助と空条承太郎が
スタンド使いのネズミを追うのあるじゃん?
俺、あれ好きなんだよ。

東方仗助がこんなことを呟く。

「承太郎さんといっしょにいると、誇り高い気持ちになれるからな…
そこは心の救いだな……」

俺にとって、真田との会話は
この時の東方仗助の気分だった。

もちろん、俺のスタンドは
股間にこじんまりと仕舞われていて、
時折ちょっと大きくなって固くなるだけで、攻撃力はない。
ダンカンに触られれば、萎んでしまう。
そんなスタンドに俺は
「テストゥド」と名付けた。
ラテン語で亀の意味を持つ。

451: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 15:23:03.59 ID:uMLYKxP/0
上履きのカカトを潰すと、
ゴムが地面と接触する時の「遊び」が大きくなる。
つまり、ペターンペターンという独特の音がする。

階段を登りながら
「なんか、ペタンペタンいってね?」とは思っていた。

ガムを噛むクチャクチャと噛む音もする。

なぜ、3F(図書室のある)から、
DQNな物音がするのだろうか?

普段であれば、俺はその鋭い危険察知能力で、
DQNが狩りに来たことを知り、
脱兎のごとく逃げ出していたはずだ。

しかし、この日の俺は真田と喋った高揚感もあり、
そして、実際に真田との「約束」をした、
ロックの歴史の本を借りるという
ミッションもあったので、進んでしまった。

454: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 15:44:16.37 ID:uMLYKxP/0
図書室の入り口に、石橋とダンカンがいたのだ。

石橋「あ?」

ダンカン「出川じゃんwwwウケるwww」

何、勝手にウケてんの!

俺は無視して、図書室に入って行った。
真田のミッションがなければ、
そのまま引き返すのが、入ってしまったんだ。

追ってくる2人。
肩に手をかけられる。

視界の端に秋山。
うっ、イジメられるの、秋山にだけは見られたない。

石橋「なんで、出川、図書室なんかいんのよ?」

お前らが居ないから来てんの!
なんで、わかんないかな、プルプル。

俺「・・・」

ダンカン「さては、女がいるなぁ」

この子、どうしてそういうところだけ、凄いの!!!
そりゃ、いるけど、そっとしておいてよ!

石橋「まじかよ?どれどれ?」

もう、やめて。
ほんとにやめて。

ダンカン「ブスしか、居なくな?」

お前の顔の方が酷いんだよ!

455: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 15:45:24.09 ID:uMLYKxP/0
俺「本、借りに来ただけで、すぐ、帰るから・・・」

ダンカン「なんだよーそれ。俺たちと遊ぼうぜ。
お前がこれから3年の教室に特攻かけるところ、見てーし」

まだそのネタ引っ張るのかYO!
すっげー、つまらねーんだYO!

石橋「そういやさ、お前、さっき真田と話してなかった?」

気づいたか?
そうだよな、政治家エセ番長。
上昇志向が鬼強のいまだDQNとしては
平民とは言わないまでも、帯刀を許されていない
武士に憧れる石橋ならば、
北中、東中の連中と仲良くもなりつつ、
真田にも近づきたいんだよなwww

あの暗黒地帯へのデビューも
虎視眈々と狙ってるみたいだしな。

気になるか?
うひょひょひょwww

456: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 15:47:01.03 ID:uMLYKxP/0
俺「別に大したあれ、じゃ、ないので」

秋山、今日に限って、なんでこっち見てるの?

石橋「じゃあ、言えよ」

軽く、蹴られた。

このパターンは危険だ!
おおよ、危険だ!

これから、どんどんとエスカレートしていく。

俺は知ってりゅ!

と、同時に。
俺は真田と喋った高揚感は続いていた。

そして、以前に
真田が石橋に「もういいか?」
と、いきなり話を終わりにしやがった
イケてる場面にシビれていた

虎の威を借りる狐というのは、カッコ悪いよな?
でもさ、この狐の気分、
実はなかなか良いものである。
だはは。

俺は思い切って言ってみた。

俺「真田の手伝いしてて、本、借りるから。もういいか?」

真似をしたつもりがぜんぜん似てない俺。
が、そんなことはどーでもいい。

空気が変わってしまった・・・

ほんと、音がしたかと思ったよ。

ダンカンは「あん?」みたいないつもの、
威嚇で単にムカついただけっぽい雰囲気。
俺が言い返したのが、意外だから、
ちょっとヤっちゃうよ、くらいな感じ。

しかし、石橋は違った。

無表情な石橋の顔から伝わってきた。

俺がオモチャから
完全な敵になってしまったことを・・・

457: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 16:34:53.78 ID:uMLYKxP/0
頬に当たっている男子トイレのタイルが
冷たいのか、熱いのか、よく分からなかった。

身体も顔も熱かったのは自覚している。

ここに連れて来られてから、数分が経っていた。

そろそろ、前田たちが到着するのだろうか?

話は数分前にさかのぼる。

図書室で俺が言い返した後、
石橋は無表情になり、
何かを言いかけたダンカンを手で制して、
無言で俺の腕をつかんだ。

俺は猛烈に襲ってくる嫌な予感の中、
赤子のように、小さくイヤイヤをした。
しかし、秋山もいることだし、
あまり目立ったことはしたくなかった。

石橋「いいから、ちょっとこっち、来いや」

耳元の声は固いものだった。

石橋、ダンカンに連れられて図書室を出た。

渡り廊下の先だ。
人があまり来ない、トイレに連れて行かれた。

458: 名も無き被検体774号+ 2012/11/10(土) 16:35:45.98 ID:uMLYKxP/0
石橋「ダンカン、お前、ナメられてるぞ」

なんで、何もしてない俺に、こんなに構うんだよ・・・

ダンカン「だよな、さっきのムカついちゃったぜ」

石橋「俺も、コイツにナメられてる。ダンカンだけじゃねー。
ま、出川は強えーから、弱えー俺たちなんかナメるわけだ」

ダンカン「出川のくせに、ふざけてね?」

同じ人間だろ?
なんで人をそうやって見下したり、
理不尽なことするわけ?

石橋「ただ、俺は頭に来てるのは、出川が特に、
ダンカンをナメてるところだ。
俺はダンカンが根性あるの知ってるから、余計にムカつく」

こいつ、人をけしかけるの、ほんとに巧いな・・・
ダンカンはうちのクラスのDQNの中では
ちょっとランクが低く見られている。
そのあたりのコンプレックスをうまく刺激している。

俺「なめて・・・ない」

459: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 16:37:00.49 ID:uMLYKxP/0
石橋「まぁ、いいじゃね?けどな、
そんなに強えーなら、相手してもらおうぜ」

俺「え?え?え?」

ダンカン「お前さ、さっき、ガンくれただろ?」

俺「し、してない」

言い終わらないうちに、頭が揺れて、
感じたことがない衝撃がきた。

俺は石橋に髪を掴まれていた。
石橋は髪を掴んだまま、壁に俺を叩きつけると、
崩れそうになる俺の襟首を掴んで立たせる。

石橋「ダンカン、いかねーと、ナメられっぞ」

石橋の手からハラハラ落ちる俺の抜けた髪の毛が、
変なアニメみたいだな、と奇妙なことを感じていた。

クッソ、という言葉を吐き出しながら、
ダンカンが腹を殴ってきた。

460: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 16:39:49.40 ID:uMLYKxP/0
今までもパンチをされたり、蹴られたりはしていたが、
あれは遊びだった。

そして、これが暴力である。

その違いの凄まじさに、

全身を恐怖が

何度も
何度も何度も
何度も何度も何度も
何度も何度も何度も何度も

突きぬけて行き、
また襲っても来た。

途中で俺は体を丸めて、床に転がった。
学生服が汚れるとか、そんな意識は完全に飛んでいた。

二人に蹴られ、たまに身体を起こされて、殴られる。
繰り返される作業が、とても長く感じた。
おそらく2分にも満たないはずだ。

息を乱した石橋が
「ダンカン、前田とか呼んできてくれ」
と言った。

「おお」と言って出ていくダンカン。

461: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 16:41:10.43 ID:uMLYKxP/0
もう一度両肩を掴まれて、俺は石橋に身体を起こされた。

石橋「もういいか?ってなんだよ、おい」

ビンタをされた。
一瞬、何を言ってるか分からなかった。

ヤキからイビリにモードは変わっていた。

口の中に異物があるような感触。
それよりも痺れの方が不快だった。

俺「・・・」

石橋「もういいか?ってなんなんだよ!」

あああああああああ!
真田の真似のことを言ってるんだな。

謝っても許してくれないだろうし、
俺はずっと、奴らに媚びない、
こっちが悪くなければ、
謝らないという一線だけは守ってきた。

本当は土下座してでも、ここから脱出したかったが、
爬虫類みたいな精神構造の石橋に、
それが通じるとは思えなかった。

不思議なのは、石橋、ダンカンの2人で
やたらめったら、殴られ、蹴られをされているとき、
とてつもない恐怖はあったが、痛みはほとんどなかった。

462: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 16:43:12.47 ID:uMLYKxP/0
石橋「お前さ、あれ、真田のマネか?」

再び頭を壁にぶつけられた。

そうだったのか!?
石橋はあの時、相当な屈辱を覚えていたのか。
相手が真田だから、なかったことにしているが、
それを俺ごときが思い出させてしまったのだ。

しかし、こうして石橋と2人きりになり、
話を交えながら、時折、殴られる、ビンタを食らう方が
よほど痛みが強烈だった。

石橋「っおい!!!どうなんだよ!!!なんか言えよ、
もっとヤキぶっこまれてーのか?」

石橋は、真田にも本当はムカついていたんだろう。
ただ、石橋ごときでは、真田に手を出すなどということは出来ない。

タイマンでも相手にならないだろうし、
真田のバッグが出てきたら、それこそオオゴトになる。
学校にも居られないだろうし、石橋の家だって無茶苦茶になる。

弱い奴には異常に強く、強い者には弱い。
典型的なDQNの石橋は、
俺と二人になったからか、油断して真田の名前を口にしてしまった。
石橋にしてみても、それは奴の恥部になっているはずだ。
だから、ダンカンが居ないとき、俺と二人のときに詰めてきたのだ。

俺にとっては、手がかりが確信に変わった瞬間でもあるが、
それよりも、今は、この時間が早く終わることを祈っていた。

463: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 16:47:08.38 ID:uMLYKxP/0
恐怖が強い時は痛みが薄い。
痛みが強くなれば、恐怖が大きくなり、訳が分からなくなる。
途方もない時間だった。

俺「急いでいたから・・・」

言い終わらないうちに、転がされていた。

頬に当たっているトイレのタイルは冷たいのか、分からなかった。
身体も顔も熱かった。

前田、柴田、的場を連れて、ダンカンが戻ってきた。

前田「どうしたん?なんかアルマジロいるけどw」

的場「うっわー、シメられちゃったん?出川君」

ダンカン「こいつ、ガンたれやがってさ。まじ、ムカつくんで」

石橋「前田、柴田、的場のことも楽勝だとか言ってるから、
ちゃんと詫び入れてもらおうと思ってさ」

言ってねーだろ、うんなこたああ!

464: 出川哲朗 ◆gc/JX/GnzA 2012/11/10(土) 16:51:52.69 ID:uMLYKxP/0
前田「まじ?wwwこええよ、出川www」

的場「じゃあ、今から、やるか?www
俺、負けちゃいそうだけど頑張るよwww」

石橋「まぁ、イジめんなやwww出川、土下座しろや」

石橋、お前だけは・・・ほんと・・・
ほっっっっっとに、くだらねーマッチポンプくれるよな。

ダンカン「土下座じゃ済まないけどなぁ」

俺「・・・」

石橋「何してんだよ、早くしろ、ごら」

俺「・・・」

5人に身体を押さえつけられて、俺は無理矢理、
手をつかされて、土下座の恰好をさせられた。

俺は泣いていた。
嗚咽を漏らしながら、この世を憎んだ。

石橋「コイツ、ほんと根性ねーくせに、妙に突っ張るし、ムカつくんだよな。喧嘩する根性もねーしな」

ダンカン「泣いてんじゃんwwwウケるwww」

奴らが帰ったあと、俺は額をトイレの床にくっつけたまま、
ずっとずっと泣いていた。
鼻水が出て、口に入ってきた。
涙と唾液でぐちょぐちょになっていた。

俺が奴らに何をしたというのだろうか・・・

再び38歳の俺から、この日の出川に伝えたい。

「あいつら、いつまでも笑ってられねーから、心配するな」

もちろん、若き日の出川に、俺の言葉は届かない。

ただ、この5人。ぜんぜん鉄の結束とかではない。
次の日から、柴田が意外な行動に出るようになった。



ってことで、しばらく離席。
今日もお前ら、読んでくれてありがとな!

465: 名も無き被検体774号+ 2012/11/10(土) 16:53:35.83 ID:LEmVgO7h0
乙!

気になる終わらせかたしやがって!